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定常電流の保存則の導出

まず,「定常電流の保存則」の保存則には二つの表式があり,それらが表す事象は異なるということに注意する必要がある.



\begin{align}
\text{「電荷密度分布は時間について一定」}\quad \frac{\partial \rho}{\partial t} &= 0 \tag{1}\\
\text{「電流の湧き出しは0」}\quad\mathrm{div}\,\boldsymbol{i} &= 0 \tag{2}
\end{align}

ここでは,(1)式を電荷についての「定常電流の保存則」,(2)式を電流についての「定常電流の保存則」と呼ぶことにする.

電流についての「定常電流の保存則」の導出

(2)式の方は変位電流を加えれば時間変動によらず成立することがアンペール・マクスウェルの法則から言える.


\begin{align}
\text{「アンペール・マクスウェルの法則」}\quad
\mathrm{rot}\,\boldsymbol{B} = \mu_0 \boldsymbol{i} + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}
\end{align}
の両辺の\mathrm{div}をとってやれば,\mathrm{div}\,\mathrm{rot}\,\boldsymbol{B}=0なので,


\begin{align}
\mathrm{div}\,\boldsymbol{i} + \mathrm{div}\left(\varepsilon_0\frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}\right) = 0. \tag{3}
\end{align}
変位電流\boldsymbol{i}_dとは,電場の時間変化を仮想的な電流としてみなすもので,これの導入によりアンペールの法則は場が時間変動する場合にも成立するのだった.定義は


\boldsymbol{i}_d = \varepsilon_0 \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}
である.
この表式を導入すれば,(3)式は


\begin{align}
\mathrm{div}\,\boldsymbol{i} + \mathrm{div}\,\boldsymbol{i}_d = 0 \tag{3}
\end{align}
と書ける.これを「電流の保存則」と呼ぼう.この式は時間変動する場合も成立するので,もちろん定常電流の場合にも成立する.僕が構成した例でも,この法則は成立している(コンデンサの極板における電場の時間変化がちょうど流出する電流と等しくなっているのだ).

ここで,電場が時間変化しないと仮定すれば\boldsymbol{i}_d=\boldsymbol{0}となるから


\begin{align}
\mathrm{div}\,\boldsymbol{i} = 0 \tag{2}
\end{align}
となり,電流についての「定常電流の保存則」が成立する.

この式に「電荷保存則」を適用すれば(1)式(電荷についての「定常電流の保存則」)が導けるのは良いだろう.しかし,電場の定常性を仮定するならば,電荷保存則を仮定しなくとも電荷についての「定常電流の保存則」は成立するのだ.

電荷についての「定常電流の保存則」の導出

電場の定常性を仮定すれば,ガウスの法則からただちに電荷についての「定常電流の保存則」が導かれる.


\text{「ガウスの法則」}\quad\mathrm{div}\,\boldsymbol{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}
を時間で微分して,微分の順番を時間と座標で入れ替える.すると,


\mathrm{div}\left(\frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}\right) = \frac{1}{\varepsilon_0}\frac{\partial \rho}{\partial t}
であり,電場の定常性を仮定しているのだから\partial \rho/\partial t=0となり,電荷についての「定常電流の保存則」が導かれた.

導出の過程を図に表すと以下の通りになる.
f:id:pandaman64:20151101174047p:plain

結局の所,「定常電流の保存則」は根源的には電場の定常性である.電流の湧き出しと電荷密度の時間変化が0で一致するのはたまたまである(もちろん「電荷保存則」があるからたまたまではないのだが).

となると気になるのは,どうしてふつうの回路では電場の変動が無いと考えていいのかだ.定常状態の定義に電荷密度分布の定常性が含まれるとする立場では,


\mathrm{div}\left(\frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}\right) = \frac{1}{\varepsilon_0}\frac{\partial \rho}{\partial t}
から電場の定常性が導けるかもしれない(本当に言えるか自信がないです).もしくは,ファインマンがしたように場の定常性も仮定に入れるべきかもしれない.けれども,それはふつうの回路についてもこの議論が適用できることを示さないだろう.そこには,導体の性質などのなんらかの仮定が追加で必要なのではないか.